きょうは一日、新しいことが何もできず、敗戦処理のような仕事ばかりしていた。見かたによっては新しいことをしているからアタマが疲れてしまう。そして処理的な作業はやはりそれに追い討ちをかける。なぜこんな仕事をしているのか。きょうこんなことをする予定はなかったのだ。
突如としてスマートフォンを昨日、買い換えたのである。スマホの端末代を分割で毎月の通信費にするのはただの借金生活でしかないと知って以来、スマホはとにかく安い金額のものを一括でと決めている。そんなふうに選んだ前回の機種は、韓国だかインドネシアだかの発音できない謎メーカーのしかも型落ち品で、家電量販店の在庫処分的なものを当時1万円で買ったのだった。2年くらい前である。
そのスマホが近日調子を悪くしていたことはここでも書いていたことだ。なにが調子悪かったのかといえば、まず充電がひたすら遅い。そしてせっかく充電された電池がすぐに空になる。それから使っているとすぐにスイッチが切れて再起動になる、といったことである。
これは調べてみるにバッテリーが寿命なのであり、まあ近いうちに修理に出すことになるだろうと、街を歩きながら修理をするとしたらどこでどうすればよいのかと考えていた。たとえばiphoneのバッテリー交換を即日でしてしまう業者は、この日本の首都Tokyoにはいくらもあるのだが、その店でこの台湾だかシンガポールだかのスマートフォンも修理することはできるのだろうか。
昨日はまったく知らないところに遊びに行った。その土地は天王洲アイルてなんじゃそらいう名前の街。浜松町から羽田空港に向かう東京モノレールの浜松町の次の駅である。おかしな名前の街になにをしにいったのかはまた近日中に書くとして、天王洲アイルの駅でモノレールを降りた瞬間、スマホの電源がまた落ちたのである。去り行くモノレールの写真を撮ろうと連写していたら、画面が真っ暗になった。ついさっき新宿のカフェで充電をして、なんとかなりましょうとやってきたところなのにだ。
知らない街でスマホを持たないということは、これはもうどうにもならない。グーグルマップの通りに歩こうとなにも道順を調べていないし、なんならもう行く場所の名前すら覚えていなかった。天王洲アイルという謎の土地、とりあえずセルフうどん屋で釜玉うどんを食べてどうするか考える。あしたもういちど来るしかないのじゃないか、しかしきっと目的地はすぐそばのはず、がそこは大きな施設ではないのでどこかで道を尋ねても誰も知らないだろう。帰るか。
が、帰ろうとしたときファミリーマートがあり、ファミリーマートにはモバイルバッテリーが売ってあるのだった。いままでずっと迷っていたモバイルバッテリーをこんな形で買う日が来ようとは。購入してつなげると再び画面が映り、グーグルマップが使えた。目的地までモバイルバッテリーをつなぎっぱなし、目的地では写真も撮影でき充実した天王洲アイルだったのだが、再び天王洲アイルのモノレール駅に着いたとき、いよいよモバイルバッテリーの電池も使い果たしてしまった。
モバイルバッテリーは販売時、電気が少しだけ入った状態で売っているので、また充電したらよいし、きょうはもううちに帰るだけだから別に大丈夫なのだがしかし。ここでブチ切れたんである。たまにこういうことがある。もうがまんができないのである。きょうスマホを修理しなくては気がすまなくなってしまった。先ほどまで見ていたのである。私が持っているタスマニアだかウズベキスタンだかのスマホメーカーが日本でただ一箇所、永田町にショップを持っており、ここに行けば即日で2000円でバッテリー交換ができると、そう書いてあった。
地下鉄の出口の番号も覚えていた。その番号の出口を出たら道の反対側を眺めれば、そのショップがあると、もう電池が切れたとき用に全てを記憶してあったのだ。記憶どおりに地下鉄を駆使してショップにたどり着いた。はるばるきたぜタジキスタン、もうここにくれば安心だ。受付の書類をつくりますとどうみてもこのショップには日本人しかいなかった派遣社員かアルバイトか。もうはよう2000円でバッテリー交換をしてくださいと、そう訴えたのだが、それはかなわなかった。
まずあんたはどこで2000円という情報を見たのか知らないが、それはバッテリーの代金であり工賃が別に5000円かかりますと。じゃあ7000円で修理できますね、というといや、いやそれがですねそれだけ電気が入るのが遅いのはなぜかといえば、たとえばこの充電コードの差込口がですね、ルーペで見ると歪んでいるんです。ほう、ではそのルーペをちょっと貸してください、というといやお客様が見てもわからないとおもいますよとボスニアヘルツェゴビナが言う。カチンとくる。それにねえこのコードの差込口にポケットだかカバンだか知りやせんが繊維くずが詰まっておりましてもうこのスマホだめなんですよ、とスウェーデンが言うのだ。いやだからルーペかして素人でもゴミがつまってんのくらいわかりますからね。ルーペヲオカシスルコトハデキカネマー。はァ?いうてですね。
ではその差込口の部分を替えたらいいでしょうというと、この部分の部品も2000円である。じゃあ9000円払ってなおるんならそれでお願いします。といったらソレデモインデスケドネーソレデモインデスケドネーと繰り返すケニア人。デモネー20000円出セバ新品ガゲットデキルヨデキルデキルヨネー。あのですね9000円でなおるんなら9000円でなおしますよといってもこいつ聞かねんだわ。価格は倍になりますがこのあとのことを考えると絶対に損はさせませんという、それはなんとなくはわかるまた壊れるとかそういうことを言っているのだろう。しかし新しいものにしたってまた2年もすれば壊れるその程度のものをオタクは製造販売してはるわけでしょう。イニシャルコストとランニングコスト、この話ももうここで、しましたよね。
だけどそれ以上にね、私はショックだったのだ。日本で唯一のショップを、日本の首都の中心の中心に構えて、それだけ自社の製品をジャパニーズに大切にしてもらおうというその店が、そんな古いもんは捨てて新しいの買ってくらさいと、ただの家電量販店みたいなことを言うとは思わなかったのだ。じゃあおめえさ、なんのために永田町にショップ開いとんがよと。押し問答をしながら呆れてしまって、もういますぐこのショップを飛び出してどこかのビックカメラに行って安い新しいスマホを買ってしまおうと思い私は、もういいと。
本来は36000円だが修理に来たあなただから20000円だというそのニュージーランドのスマートフォンを買うたったのである。
疲れた。さっと立ち寄って修理して帰るつもりで昼に入店し、一連の押し問答を終えて新しいスマホを手に中南米あたりのショップを出たときはもう、まっくらな夜になっていたのだった。ショップを出たらすぐとなりのサンマルクカフェでチョコクロをかじりながら初期設定をはじめて、その設定の残りをきょうも一日していたというわけです。この話のポイントがいったいどこにあるのか、言い争いをしていたこともありとにかく心がかき混ぜられて、いまも不安定な感じがして気持ち悪いのですがしかし、なぜだか突然最新のスマートフォンを手に入れてみるとたしかに動作が滑らかできびきびもしていて、明日くらいからは疲労も忘れて、機嫌よく生きていけそうな気がしている。
古いスマホはwifiが飛んでいる家の中でコードに常時接続しておく限りはいまのところタブレット的に不自由なく使えるため、家に帰ってスマホがいじりたい気分のときは古い機械を使い、新しい電話は充電位置を決めて家では触らないことにした。