平成最後の、令和元年の、ゴールデンウィークを前にして、田中が時代の最後に書いておこうと思うことは、田中はにわは残念ながらもう、ワインを愛していないということだ。ツイッターでもワインをつながりとした友達が多いから、なかなか言えなかったことだが、田中はワインを平成に置いていこうとしている。
あまり大きな声で言うことはできない、と言いつつ、インターネットで声量を調節することは不可能だが、これまでココでも言ったことがあるからいいんだろう。いま無職の、田中の前職は、山梨県でワインに関係する仕事をやっていた。そこで事故にあい(怪我)、いや事故以前から職場に対する不信感がつのっていて、それが事故を契機に爆発して、いや静かに決意をして、するっとそこを辞めて東京都日野市南平に引っ越してきたのだ。
田中はいまでもワインを中心とした文化と、またワインをめぐる科学とに、強い興味を持っていることは、また一方で事実である。特に、山梨県の偉人である麻井宇介に関する興味は尽きない。田中がウィキペディアの執筆をやってみたいと言いつつ時間が無くてできていないが、なぜそう言っているのかというと、ウィキペディアに麻井宇介という項がないからだ。だれかが書いてくれたらそれでよいが、このまま放置されるようなら田中が執筆したいと思っているんである。
ではなぜ田中はワインを捨てるのかといえば、単純な話、田中はほとんど酒が飲めないのである。ワインが仕事であった時代、ワインをたしなむことは義務であったが、そこにタノシミを見出すことはついぞできなかった。飲食文化が理屈として成り立っていることには、その形而上学にはいまでも興味をひかれているものの、ワイン自体のたのしみは、たぶんわかっていないんだろうとおもう。またワインを飲み、酔うと、いまこれも酔った勢いで書いているのだが、酔うとあのワインの職場でのいやな記憶ばかりが、あのワインを愛する人々特有の偏屈が、思い返される。時代の節目とともに、いやなものは捨てるに限る。
まず、言っていなかったが、田中は東京都日野市南平に越してきたとき、山梨県では部屋に付いていた冷蔵庫がココには無いため、冷蔵庫代わりにワインセラーを使用することにしたのだった。そこで職場で習ったとおりに熟成させていたワインは、流しの下につめこまれ、日々消費されたり風呂にぶちまけて香りを楽しんだりされている。そんであともうひとつ、田中の部屋を狭くしている紙束、これは在職中にさんざ勉強した論文のたぐいで、これをもう捨てたらよいようなものの、ただ捨てるのも癪なので、ここに読書感想文のように著作権法にのっとって公開することで、供養していこうと思う。当時、田中がインターネットに頼っていたように、誰かの役にはきっとたつだろうと思う。
New Food Industryという専門誌がある。食品資材研究会が出している。その名の通りの雑誌だが、たまにワインの専門家も寄稿しており、チェックしておく必要のある雑誌だろう。2010年52巻1号に、佐藤充克(山梨大学)「ワインの熟成と成分の変化について―最近の醸造方法と機能性―」という論文が見られる。赤ワインの「熟成」とはなにか、またマイクロオキシデーションに興味がある方も参考になる論文である。
ワインは熟成すると、アントシアニンを含むポリフェノールの重合が進み、色調も紫色から赤、そしてレンガ色になり、味も角が取れてスムースでマイルドになることが知られている。
以上。という感じの切れ味があるこの文章は、論文の冒頭の文章である。ワインの熟成についてわかりやすく書いてある論文として、田中が大変お世話になった論文である。ポリフェノールというのは、植物が自分を守るためにつくっている色素や苦味成分の総称でありまして、ブドウ色のアントシアニンもそうですし、たとえば苦味成分カテキンもブドウには含まれているのですね。ワインが発酵している間にはアントシアニンは変化しないんですが、その後の熟成期間において、アントシアニンはカテキンとくっついていくんです。つまり、アントシアニン・モノマーが減り、重合が進む。それによって色素が安定し、苦味も減るから味がまろやかになると。
さてここで問題なのは、アントシアニンとカテキンの結婚、という反応を媒介する仲人が必要ということで、それがワインの酸化によってうまれるアセドアルデヒドなのですね。ですからアセドアルデヒドだらけのワインは飲めたものではなくなってしまいますが、ほんの少しのアセドアルデヒドは重要と。この手の、ちょっとの毒がワインをうまくする理論、はノムリエの皆さんがよくご存知のところです。で、ちょっとのアセドアルデヒド、ちょっとの酸化を促すための方法が、マイクロオキシデーション、酸素をぶくぶくとポンプで入れる方法である。
また論文をはずれれば、いま話題の、ワインのふるさとジョージアの、土器に入ったワインも、その器を通した微妙な酸化が効いているはずで。日本のワイナリーでもこの手の動きはありますよねと。 そんなことでこの論文のコピーは無事、東京都日野市の廃品回収に出されました。こんな感じで、あと何百もブログが書けるが、書いているうちに飽きてしまったら、ファイルごと廃品回収に出す。さようなら、わたしのワインよ。