2019年4月11日木曜日

たぶん医学よりエセ科学


ワイン。それはブドウの果汁からできた酒だが、ブドウの果汁を酒にするのは、甘いブドウの糖分を食べにきた酵母だ。酵母という生き物は糖を食べて、アルコールを排出する、そういう生き物。だからワインはぶどうジュースより甘くなく、アルコールが混じっている。

酵母はその一つを観察していると、人間を含むいろいろな生き物のモデルのように細胞が変化し動くので、生物学の基礎的な研究によく使われる。酵母においてはやくから観察されていた「オートファジー」(はじめは「オートリシス」という言葉のほうが流通していた)は、当初は酵母に独特な現象とも考えられていたが、現在ではそれこそ生き物に共通する現象であったのだと判明しており、この研究で日本人がノーベル賞を受賞したことで、この言葉はいまでは広く知られるところとなっている。

田中はオートファジーという言葉を聞くと、昔していたワインの仕事のことを思い出す。オートファジーとは細胞の中でいらない物質を掃除するような器官がうまれ、細胞の一部であるその器官が細胞自らを自分で食べてきれいにするという、細胞が生き延びるための仕組み。しかし酵母の場合、このオートファジーの仕組みがいつしか暴走をはじめ、ついにはまさしく自らを食べてしまい、死んでしまうのだ。


生物としてはそういうことなのだが、ワインの製造においてはこの酵母の死骸が重要な役割を果たすことがある。「酵母の死骸」とは通常ワインにおいて「滓(おり)」といわれるものだ。が、酵母の死骸は「生きている酵母」とは生死以外の面で、完全に区別される、ということが重要だ。酵母の死骸はオートファジーによって死を迎えることで、物質的に完全に変化しており、味噌汁に蚊の死骸が浮いているのとは根本的にイメージが異なる。その酵母の死骸に触れていたワインはその物質によってこそ、おいしくなるのである。

Aging that involves contact with dying yeast cells is one of the differential processes between sparkling and still wine production. The release of the products of autolysis during this aging step is fundamental for the quality of sparkling wines made by the traditional method. 
死んだ酵母細胞との接触を含む熟成は、スパークリングワインとスティルワインの相違的なプロセスのひとつである。この熟成期間のオートリシス生成物の放出は、トラディショナルメソッドによってつくられるスパークリングワインの品質にとって根本的な要素である。(「ワインメイキングにおけるオートファジー」田中訳) 
トラディショナルメソッドは日本語における「瓶内二次発酵」を意味する。大雑把すぎる言い方を承知で、発酵中のワイン(ブドウ果汁+酵母)を瓶詰する方法ということになり、しぜん瓶の中でワインは滓とともに熟成されていくことになる。またスティルワインという言葉もワインを知らない人には聞きなじみがなかろうが、スパークリングワインの対立項であり、すなわち「しゅわしゅわしないワイン」を意味する。しかし、ここに引用したのは論文の冒頭であり、読み進めるとわかるように、またワイン呑みの間では常識であるように、スティルのなかにも滓との接触で味を向上させる製法がある。それが「シュールリー」と言われるタンク内で滓と接触させながら寝かせる方法であるわけだ。


と知ったようなことを書いてみたのは、田中が本日のインターネットで「オートファジー」という言葉をみたからだった。その言葉はかつて田中が寝食を惜しんで勉強してうつ病を発症したワインのことを思い出させたのだったが、きょうの話それは理化学研究所が流したツイートだが、ワインの話でもなければノーベル賞の話でもなかったので、田中はたいへんにおどろいた。そしてそこにまた現れた文字が「自閉症」、田中の病気であった。まあ切り抜いてきたタイトル通りのことが書いてある。オートファジーについてはまたもっと詳しく勉強しようと思う。

オートファジー機能の欠損が自閉症様行動を誘導

-発達障害や精神疾患の克服に向けた新たな治療戦略に貢献-


そしてこんなものも流れてきた。従来「エセ科学」と退けられてきたようなことと、科学の日進月歩によって新たに判明する意外な真実は、きっと双子のようによく似た者だろう。だから全てのエセ科学を認めよということにはならないが、知らないことを知るというのはそのように恐ろしいことなのだ。

「便移植」で重症の自閉症の子が47パーセント減。

「腸内環境」という言葉にはまだ通販的な、エセのにおいがついている。しかしそれは今後どんどん真実味を帯びていずれは事実となるだろう。田中がこの話を聖蹟桜ヶ丘のおばさんにすると、ポシュレで見たポシュレで見たといって古市憲寿が選んだ防災グッズセット(避難所で退屈しないトランプ付き)をよろこんで買っていた聖蹟桜ヶ丘の叔母さんが、持っていた乳酸菌で腸内環境を整えるタブレットをくれたので、田中もしばらく飲んでみることにした。

トランプなんか持ってたってやる相手もいねえのに何をしとんということだが、テレビジョンでは避難所ではじめて出会う地域住民同士の交流の話も放送されているそうだ。田中にはまだまだ知らない世界がたくさんあり、これからも勉強を続けていかなくてはならない。聖蹟桜ヶ丘の叔母さんがくれたものと同じものをアマゾンで300円安くなくなった時用に買い、田中は聖蹟桜ヶ丘に勝った。

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